あれは念願の一人暮らしを始めて初めての夏、都内の古い木造アパートで私が経験した、一生消えることのないトラップのような恐怖と安堵の物語ですが、その夜の主役は私の安眠を奪う黒い影と、それを音もなく飲み込んだゴキブリホイホイでした。当時の私は、自分の部屋が清潔であれば虫など現れないという無垢な自信を持っていましたが、蒸し暑い深夜、ふと喉の渇きで目を覚ましキッチンの電気をつけた瞬間に、冷蔵庫の脇からサササッと走り出した巨大な影を見て、その自信は一瞬にして崩壊し、私は心臓が止まるような戦慄とともに一歩も動けなくなりました。殺虫スプレーを構えて相手を追い回す勇気など微塵もなかった私は、翌朝一番で薬局へ駆け込み、最後の希望としてあの黒い円盤ならぬ「黄色い屋根の家」を買い込みましたが、それを設置する際にも、もし中を覗いて奴と目が合ったらどうしようという二次的な恐怖に苛まれていたのを覚えています。私は懐中電灯を片手に、壁の隅やシンクの下といった、人間が一生触れることのない「ブラックボックス」領域を特定し、そこに祈るような気持ちで幾つかの罠を滑り込ませましたが、それは私にとって不法侵入者に対する静かなる宣戦布告でもありました。設置から三日間、私はキッチンへ立ち入るたびに心拍数が上がるのを自覚していましたが、四日目の夜、ふと罠の周辺から「カサリ」という微かな、しかし生命の執念を感じさせる音が聞こえた瞬間、私はついにその時が来たことを悟りました。意を決して翌朝、長いトングを使ってその捕獲器を回収した際、屋根の隙間から見えたのは、もはや逃げ場を失い、自らの欲望に抗えず粘着の海に沈んだあの夜の侵略者の姿であり、私は一切の物理的接触をすることなく、完勝を収めることができたのです。この体験を通じて私が学んだのは、自然界のサバイバーと対峙するには、パニックを抑えた科学的な誘導が最も優雅な解決策であるということであり、あの日以来、私の部屋は不快な羽音に怯えることのない高品質な聖域へと生まれ変わりました。ゴキブリホイホイの凄さは、それが私が眠っている間にも二十四時間体制でパトロールを代行し、不浄な存在を社会から完全に隔離(コンテインメント)してくれる「見えない警備員」としての機能にあり、その知的な防除は、一人暮らしの私に家を統治する主権者としての誇りを取り戻させてくれました。今でも季節の変わり目には、あの日と同じ黄色い箱を新調し、一ミリの隙間も見逃さない配置を続けていますが、それは私にとって平和な日常を維持するための神聖な儀式であり、あの深夜の戦慄を二度と繰り返さないための最強のセキュリティパッチなのです。不器用な格闘を卒業し、静かなる全滅を待つ忍耐こそが、虫嫌いに相応しい洗練された戦い方であることを、私はあの木造アパートの片隅で学びました。
深夜の台所でゴキブリを捕獲した記録