あれは去年の八月、お盆休みに家族で訪れた清流沿いのキャンプ場での出来事でしたが、楽しかったはずの川遊びが一転して、私にとって生涯忘れられない刺痛と痒みのトラウマへと変わってしまったのは、あの不気味な羽音を響かせて現れたアブの軍団のせいでした。川に足をつけて涼んでいた際、ふとふくらはぎのあたりにチクッとした鋭い痛みを感じ、反射的に手で叩こうとした瞬間に、私の目に飛び込んできたのは体長二センチメートルはあろうかという、どっしりとした体格の黒っぽい虫が飛び去る姿でした。それがアブであると理解した時には、すでに私の脚からはポタポタと鮮血が滴り落ちており、蚊に刺された時とは明らかに違う、皮膚を無理やり切り裂かれたような生々しい傷跡に私はパニックに近い衝撃を覚えたのです。当時の私はアブに関する知識が乏しく、ただの大きなハエに噛まれた程度に考えて傷口を水で洗って済ませていましたが、本当の恐怖はその日の夜に始まり、翌朝にはピークを迎えました。目を覚ました瞬間に右脚全体が熱を持ってパンパンに腫れ上がり、患部は赤紫色のどす黒い炎症に覆われ、床に足をつけただけで患部に激痛が走り、まともに歩くことさえできない状態になっていたのです。痒みは皮膚の奥底から湧き上がってくるような執拗なもので、いくら指で押さえても、冷やしても、一向に収まる気配がなく、あまりの不快感に気が狂いそうになるほどでした。結局、せっかくのバーベキューもハイキングも全て白紙となり、私はテントの中で片足を高く上げ、ひたすら保冷剤で冷やし続けるという無惨な休日を過ごすことになりました。帰宅後に皮膚科を受診すると、医師からは「アブの唾液に含まれる毒素へのアレルギー反応がかなり強く出ている」と言われ、強力なステロイド軟膏と抗ヒスタミン剤を処方されましたが、完治までに二週間以上を要し、その間の執拗な痒みは夜も満足に眠れないほど過酷なものでした。この苦い体験を通じて私が痛感したのは、自然界の捕食者に対する準備不足がいかに愚かなことかということであり、特にお盆時期の山間部は、ハチだけでなくアブも最も活動的になる魔の時間帯であることを身をもって学んだのです。あの日、もし私が格好を気にして黒いレギンスを履いていなければ、あるいは強力な忌避剤を怠らなければ、あんなに苦しむことはなかったはずです。今では川遊びに行く際も必ず白っぽい明るい色の服装を徹底し、ハッカ油のスプレーを全身に纏わせるようにしていますが、あのふくらはぎを切り裂かれた瞬間の感触と、その後に続いた悶絶級の痒みは、私に自然への謙虚な警戒心を植え付けるための、高くつく授業料だったのだと考えています。美しい景色に隠されたアブの影を忘れないこと、それが家族の笑顔を守るための最低限のアウトドア・マナーであることを、私は脚に残った僅かな色素沈着を見るたびに自分に言い聞かせています。