ゴキブリ駆除というと、専門業者による薬剤散布を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、どんなに強力な薬剤を使用しても、日々の清掃が疎かであれば、ゴキ-ブリの根絶は不可能です。プロの視点から見れば、最も効果的で、かつコストのかからないゴキブリ対策とは、彼らが住みにくい環境を日々のオペレーションの中に作り上げる「徹底した清掃」に他なりません。ここでは、ゴキブリを寄せ付けないための、日常的に実践すべき清掃のポイントを解説します。まず、閉店後の清掃ルーティンで最も重要なのが、「床の清掃」です。一日の営業で、床には目に見えない食材のカスや油の粒子が無数に蓄積しています。これを放置することが、夜間のゴキブリの活動を許す最大の原因となります。単に掃くだけでなく、必ず洗剤とデッキブラシを使って床全体の油汚れを浮かせ、その後、水で完全に洗い流し、最後にスクイージーで水分を完全に取り除く、という工程を徹底してください。湿ったままの状態は、ゴキブリに水分を与えることになるため、乾燥させることが非常に重要です。次に、ゴキブリの巣窟となりやすい「厨房機器の周辺」です。コールドテーブルや冷蔵庫、作業台の下や裏側は、毎日必ず清掃の範囲に含めるべきです。動かせる機器はできるだけ動かし、その下の床や壁際を清掃します。機器のモーター部分は暖かく、ゴキブリが好む場所なので、周辺のホコリやゴミも丁寧に取り除きましょう。そして、多くの飲食店が見落としがちで、しかしゴキブリ対策の要とも言えるのが「グリストラップ」の管理です。グリストラップは、厨房からの排水に含まれる油脂やゴミを集める装置ですが、その内部はゴキブリにとって最高の餌場であり、繁殖拠点となります。最低でも週に一度は内部のバスケットのゴミを捨て、定期的に専門業者による清掃を行うなど、常に清潔な状態を保つことが、厨房全体のゴキブリの数を抑制する上で絶大な効果を発揮します。これらの清掃を「面倒な作業」と捉えるのではなく、お客様に安全で美味しい食事を提供するという、飲食店の根幹を支える「最も重要な仕事の一つ」と位置づけ、従業員全員で意識を共有し、徹底することが、薬剤だけに頼らない、持続可能なゴキブリ対策の鍵となるのです。