イエシバンムシと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、小麦粉やパスタといった食品が食べられてしまう「食害」でしょう。確かにこれは最も代表的な被害であり、発見した時の精神的なショックも大きいものです。しかし、彼らがもたらす被害は、キッチンの食品棚の中だけに留まりません。その食性の広さゆえに、私たちの生活空間の至る所で、予期せぬ被害を引き起こす可能性があるのです。食品以外の被害として最も深刻なのが、畳への食害です。イエシバンムシの幼虫は、畳の芯である藁を食べて成長します。表面上は綺麗に見えても、内部では幼虫が藁を食い荒らし、ボロボロにしてしまっていることがあります。畳の上を歩くとフカフカした感触があったり、畳の隙間から粉のようなものが出てきたりしたら、内部で被害が進行しているサインかもしれません。また、インテリアとして飾っているドライフラワーやポプリも、彼らにとってはおいしいご馳走です。気づいた時には花や葉が粉々になっていた、という悲しい事態も起こり得ます。書斎では、本の装丁に使われている糊や和紙を食べるため、大切な古書が被害に遭うこともあります。しかし、イエシバンムシがもたらす最も厄介な被害は、彼ら自身による直接的なものではなく、二次的に発生する「人的被害」です。イエシバンムシの幼虫には、「シバンムシアリガタバチ」という天敵のハチが寄生することがあります。このハチは体長二ミリほどのアリに似た姿をしていますが、人を刺すことがあるのです。刺されるとチクッとした激しい痛みが走り、赤く腫れて強いかゆみが数日間続きます。イエシバンムシが大発生すると、それに伴ってこの天敵のハチも増殖し、家の中で人が刺される被害が多発するようになります。つまり、イエシバンムシを放置することは、不快なだけでなく、人を刺す害虫を呼び寄せる原因にもなるのです。この二次被害の存在こそ、彼らを早期に駆除しなければならない最大の理由の一つと言えるでしょう。
食品だけじゃない!イエシバンムシがもたらす意外な被害