あれは、肌寒い風が吹き始めた、秋の日のことでした。去年買ったばかりで、一度しか着ていないお気に入りのカシミヤのセーターを、クローゼットの奥から引っ張り出したのです。その柔らかな手触りと、美しいオフホワイトの色合いに心を躍らせながら、袖を通そうとした、まさにその瞬間でした。胸元に、小さな、しかしはっきりとわかる穴が開いていることに気づいたのです。最初は、どこかに引っ掛けてしまったのかと思いました。しかし、よく見ると、その穴は一つだけではありませんでした。裾のあたりにも、脇の下にも、まるで虫が這った跡のように、複数の小さな穴が点々と、あるいは線状に連なっていたのです。頭が真っ白になりました。あの、大切にしていたセーターが、無残な姿に変わり果てていたのです。原因は、すぐに分かりました。セーターをよく見ると、糸くずのような、小さなミノムシのようなものが付着していました。イガの幼虫でした。去年の冬、一度着た後、「まだきれいだから」と、洗濯もせずにそのままクローゼットに吊るしてしまった、自分の甘さが招いた悲劇でした。目には見えなくても、私の体から付着した皮脂や、食事の際に飛んだかもしれない微細な汚れが、虫たちを呼び寄せるご馳走になってしまったのです。そして、換気もろくにせず、ぎゅうぎゅうに服を詰め込んでいた私のクローゼットは、彼らにとって繁殖するための最高の楽園だったのでしょう。ショックと後悔で、その日は一日中、気分が沈んでいました。しかし、この苦い経験は、私に衣類管理の重要性を、身をもって教えてくれました。その日以来、私は「一度でも着た服は、必ず洗ってからしまう」「クローゼットは定期的に換気し、詰め込みすぎない」「防虫剤は有効期限を守って正しく使う」という三つのルールを、鉄の掟として守るようになりました。あのお気に入りのセーターは、もう二度と着ることはできません。しかし、その無数の穴は、私にとって、大切なものを守るための知恵と教訓を教えてくれた、忘れられない傷跡として、今も心に残り続けています。