「足が長い蜘蛛」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、実は二種類の全く異なる蜘蛛かもしれません。一方は、風呂場や部屋の隅で、か細い脚を震わせる「イエユウレイグモ」。そしてもう一方は、その巨大さと驚異的なスピードで、私たちの心に強烈なインパクトを残す「アシダカグモ」です。この二者は、どちらも家の中で見かける代表的な足長蜘蛛ですが、その見た目、生態、そして家の中で果たしている役割には、大きな違いがあります。まず、見た目と大きさです。イエユウレイグモは、体長が一センチにも満たない小さな体に、不釣り合いなほど細く長い脚を持っています。その姿は、どこか華奢で、頼りなげな印象を与えます。一方、アシダカグモは、脚を広げるとCD一枚分ほどの大きさにもなる、日本最大級の蜘蛛です。体は平たく、褐色でまだら模様があり、その姿は力強く、まさにハンターといった風格を漂わせています。次に行動様式と巣の有無も対照的です。イエユウレイグモは、天井の隅などに、綿ぼこりが絡まったような、不規則な形の巣を張り、獲物がかかるのをじっと待ち構える「造網性」の蜘蛛です。対して、アシダカグモは、巣を一切張らず、家の中を徘徊しながら、自らの足で獲物を追い詰めて捕らえる「徘徊性」の蜘蛛です。そして、最も重要なのが、彼らが主食とする「獲物」と、家の中で果たしている「役割」の違いです。イエユウレイグモが得意とするのは、ダニやチャタテムシ、チョウバエといった、非常に小さな害虫です。彼らは、私たちが気づかないようなミクロの世界で、家の衛生環境を守ってくれています。一方、アシダカグモのメインターゲットは、害虫の王様とも言える、あの「ゴキブリ」です。その圧倒的な戦闘能力で、成虫のゴキブリさえも捕食します。つまり、イエユウレイグモが「軽歩兵」として小物害虫を掃討し、アシダカグモが「重戦車」として大物であるゴキブリを叩く、という見事な役割分担が、私たちの家の中で、知らず知らずのうちに行われているのかもしれません。どちらも、見た目は恐ろしいかもしれませんが、私たちの暮らしを守ってくれる、頼もしい同居人なのです。