アシナガバチは、スズメバチに比べれば比較的おとなしい、とよく言われます。しかし、その「おとなしい」という言葉を鵜呑みにし、油断して近づくことは、非常に危険です。彼らもまた、自分の巣と仲間を守るためには、躊躇なくその毒針を使う、獰猛なハンターなのです。アシナガバチが、その穏やかな仮面を脱ぎ捨て、攻撃的になる「スイッチ」が入る瞬間は、どのような時なのでしょうか。その引き金を理解しておくことは、無用な刺激を避け、刺されるリスクを最小限にするために不可欠です。まず、最も危険なスイッチが、「巣への直接的な刺激」です。巣に物が当たったり、巣が揺れたりすることは、彼らにとって、巣が破壊されるかもしれないという、最大の危機を意味します。洗濯物を干す際に、ハンガーが巣に触れてしまったり、子供が投げたボールが巣の近くの壁に当たったり。このような偶発的な出来事が、彼らの防衛本能を最大限に刺激し、巣にいるハチが一斉に飛び出してきて、攻撃を開始する引き金となります。特に、巣が大きくなる夏以降は、巣の防衛範囲も広がり、巣から一メートルから二メートル以内に近づくだけで、威嚇行動を取るようになります。次に、アシナガバチを興奮させるのが「素早い動き」と「黒い色」です。彼らの天敵であるクマや鳥などを連想させるため、黒くて、ひらひらと動くものに対して、本能的に攻撃を仕掛ける習性があります。黒い色の服を着て、巣の近くで急に走ったり、手で払うような大きな動きをしたりすることは、自ら「私は敵です」と宣言しているようなものです。もし近くでハチが飛び始めても、決して大声を出したり、走り回ったりせず、ゆっくりと姿勢を低くして、静かにその場を離れるのが、最も安全な対処法です。さらに、「匂い」も彼らを刺激する重要な要因です。香水やコロン、香りの強い整髪料や柔軟剤、そして汗の匂いなどは、彼らの警戒フェロモン(警報フェロモン)と成分が似ているため、ハチを興奮させ、攻撃を誘発することがあります。夏場に屋外で活動する際は、これらの香りが強い製品の使用を避けるのが賢明です。これらの「スイッチ」を知り、それを押さないように意識して行動すること。それこそが、アシナガバチとの間に、安全な境界線を引くための、最も効果的な方法なのです。
アシナガバチが攻撃的になる瞬間