アシナガバチとスズメバチは、どちらも「蜂」として一括りにされがちですが、その危険度と攻撃性においては、まさに「手練れのチンピラ」と「重装備の特殊部隊」ほどの決定的な違いが存在します。この違いを正しく理解することは、蜂の巣に遭遇した際の、適切な対応(自分で対処できるレベルか、絶対にプロに任せるべきか)を判断するための、極めて重要な知識となります。まず、最も大きな違いは「攻撃性」です。アシナガバチは、基本的に巣に直接的な刺激(揺らす、物を当てるなど)が加えられない限り、自ら積極的に人を襲ってくることは比較的少ないです。彼らの攻撃は、あくまで巣を守るための「防衛行動」であり、巣から離れた場所で餌を探している個体は、こちらから手を出さない限り、ほとんど無害です。しかし、スズメバチは全く異なります。彼らは非常に縄張り意識が強く、巣の数メートル以内に近づいただけでも、それを「侵略」とみなし、警告なしに攻撃してくることがあります。また、一度敵と認識した相手を、執拗に、そして集団で追いかけてきて攻撃するという、極めて高い攻撃性を持っています。次に、「毒の強さと量」も、その危険度を大きく左右します。アシナガバチの毒も、もちろんアナフィラキシーショックを引き起こす危険なものですが、毒の成分の種類や量において、スズメバチの毒はそれをはるかに凌駕します。特に、オオスズメバチの毒には、痛み成分や、組織を溶かす酵素などが複雑にカクテルされており、その毒性は蜂類の中でも最強クラスです。また、スズメバチは体が大きいため、一度に注入する毒の量も、アシナガバチより圧倒的に多いです。さらに、「顎の力」も無視できません。アシナガバチは針で刺すだけですが、スズメバチは、その強力な大顎で皮膚に噛みつき、体を固定しながら、何度も繰り返し毒針を突き刺すという、恐ろしい攻撃方法をとります。これらの違いから、アシナガバチの巣は、初期段階で、正しい手順を踏めば個人での駆除も可能ですが、スズメバチの巣の駆除は、いかなる状況であっても、絶対に素人が手を出してはならない、専門家の領域であると断言できます。