去年の夏休み私は家族と共に標高の高い高原のキャンプ場を訪れましたがそこで経験した出来事は血を吸う虫に対する私の認識を根底から覆すほど衝撃的で苦痛に満ちたものでした。到着した日は雲一つない快晴で私は解放感から半袖短パンという軽装でテントの設営作業に勤しんでいましたがその時足首のあたりに数匹の小さなコバエのような虫がまとわりついていることに気づきました。特に痛みも感じなかったためただ手で追い払うだけで作業を続けていましたが夕方になって夕食の準備をしている頃ふと足元を見ると噛まれたような跡から僅かに血が滲んでおり少しチクチクする程度の違和感が出てきました。それが地獄の始まりであるとも知らず私は市販の痒み止めを塗ってそのまま就寝しましたが本当の恐怖は翌朝の目覚めとともに訪れたのです。目を覚ました瞬間に右足全体が熱を持ってパンパンに腫れ上がっており床に足をつけただけで患部に激痛が走りまともに歩くことさえ困難な状態になっていたのです。鏡を見ると足首からふくらはぎにかけて真っ赤に炎症が広がり昨日の小さな噛み跡は水ぶくれのように膨らんでおりその正体こそが多くのキャンパーが恐れるブユ(ブヨ)であったことを管理人の話で知りました。ブユ(ブヨ)は蚊のように刺すのではなく皮膚を噛み切って毒素を流し込むためアレルギー反応が強く出ることそして私の軽装が格好のターゲットになっていたことを教わりました。せっかくのハイキングの予定はすべて白紙となり私はテントの中で保冷剤を使って足を冷やし続けるという無惨な休日を過ごすことになりましたが痒みは皮膚の奥底から湧き上がってくるような執拗なもので一週間が経過しても一向に収まる気配がありませんでした。仕事に戻ってからも靴の中で患部が疼き集中力が削がれる毎日は苦痛そのもので最終的には皮膚科で強いステロイド薬を処方されることでようやく沈静化しましたがあの日以来私の登山やキャンプの装備は一変しました。今ではどんなに暑くても厚手の靴下と長ズボンを着用し首元には防虫ネットそして強力なハッカ油スプレーを数時間おきに全身に浴びせるようにしていますがあの足の裏まで突き抜けるような悶絶級の痒みと腫れは二度と思い出したくない恐ろしい記憶として私の心に深く刻まれています。自然の美しさを享受するためにはそこに潜む牙すなわち刺す虫たちへの最大限の敬意と警戒が必要であることを私は文字通り身をもって学んだのです。美しい景色を楽しむために必要なのは最新のテントでも豪華な食事でもなく自分を守るための知識と防備なのだとあの日高原を去る瞬間の足の重みとともに強く実感しました。