家の隅や天井、特に風呂場や洗面所といった水回りで、非常に細長くか細い脚を持つ、あの蜘蛛。刺激すると体を小刻みに揺らす、どこか頼りなげなその姿に、多くの人が「一体この蜘蛛は何だろう?」と首を傾げます。この、私たちの家の中で最も頻繁に遭遇する足が長い蜘蛛の正体、それは「イエユウレイグモ」という名前を持つ、極めておとなしい蜘蛛です。その名の通り、半透明で弱々しい体と、暗がりを好む性質から「家の幽霊蜘蛛」と呼ばれています。体長は一センチにも満たない小さなものですが、その体からは不釣り合いなほどに長く、繊細な脚が何本も伸びています。彼らの生態は、その見た目通り、非常に控えめです。天井の隅や家具の裏側といった、あまり人の動きがない場所に、一見すると無秩序に見える、雑な形の巣(不規則網)を張ります。そして、その巣にかかるのを、ひたすら静かに待ち続けるのです。彼らが主食とするのは、ダニやチャタテムシ、あるいは蚊やコバエといった、私たち人間にとっての害虫や不快な虫たちです。そのか細い体からは想像もつきませんが、彼らは自分よりも大きな他の蜘蛛を捕食することさえある、意外な実力者でもあります。イエユウレイグモは、人間に対して全くと言っていいほど攻撃性がありません。毒も非常に弱く、そもそもその小さな牙が人間の皮膚を貫通することは困難です。衛生面でも、病原菌を媒介するようなことはなく、完全に無害な存在です。むしろ、私たちの知らないところで、アレルギーの原因となるダニなどを捕食してくれている、静かなる同居人であり、家の衛生環境を守る「益虫」なのです。その不気味な名前に惑わされてはいけません。彼らの正体は、臆病で、人畜無害で、そして私たちの暮らしに少しだけ貢献してくれている、家の片隅の小さな住人なのです。
家にいる足が長い蜘蛛の正体とは?