「ドライクリーニングに出したから、これで虫食いの心配はないだろう」。そう安心して、クリーニング店から戻ってきたビニールカバーをかけたまま、クローゼットに衣類を長期間保管していませんか。実は、その安心感と、良かれと思ってやっている習慣が、かえって虫食いのリスクを高めている可能性があるのです。衣類害虫対策において、クリーニングが非常に重要であることは間違いありません。その最大の理由は、虫の餌となる「目に見えない汚れ」を徹底的に除去してくれるからです。一見きれいに見える衣類でも、一度着用すれば、汗の成分である塩分や尿素、皮脂、そして食事の際に飛んだ食品の微細なシミなどが付着しています。これらの汚れは、衣類害虫にとって、ケラチン(動物性繊維)と同じか、それ以上に魅力的なご馳走となります。家庭での洗濯では落としきれないこれらの頑固な汚れを、クリーニングの有機溶剤は効果的に分解・除去してくれます。つまり、クリーニングとは、衣類を清潔にするだけでなく、虫の餌を断つという、最強の防虫対策なのです。特に、シーズンオフの衣類を長期間保管する前の「しまい洗い」としてクリーニングを利用することは、虫食いを防ぐ上で絶大な効果を発揮します。しかし、ここで注意が必要なのが、クリーニング後の「ビニールカバー」の扱いです。あのカバーは、あくまで店舗から自宅へ持ち帰るまでの間の、ホコリ除けや汚れ防止のためのものです。通気性が非常に悪いため、かけたまま長期間保管すると、内部に湿気がこもり、カビの発生や、変色の原因となる可能性があります。また、一部のクリーニング溶剤が完全に揮発せずに残っていた場合、化学変化を起こすこともあります。クリーニングから戻ってきた衣類は、必ずビニールカバーを外し、風通しの良い場所で数時間陰干しして、残った湿気や溶剤の匂いを完全に飛ばしてから、クローゼットにしまうのが鉄則です。そして、保管する際は、通気性の良い不織布のカバーなどをかけるのが理想的です。クリーニングの力を正しく理解し、その後の管理までを完璧に行うこと。それこそが、プロの仕上げを最大限に活かし、大切な衣類を最高の状態で守り抜くための、賢明な知恵なのです。
見えない汚れが虫を呼ぶクリーニング