家の軒下に巣を作り、私たちを恐怖に陥れるアシナガバチ。その存在は、多くの人にとって、ただただ駆除すべき「害虫」としか映らないかもしれません。しかし、彼らの生態を少し深く知ると、人間にとって、そして自然界全体にとって、非常に有益な役割を果たしている「益虫」としての、意外な一面が見えてきます。アシナガバチが、その長い脚で優雅に空中を舞う時、彼らは決して遊びで飛んでいるわけではありません。その多くは、巣の中で待つ、 hungryな幼虫たちのための「餌探し」の真っ最中なのです。そして、彼らが幼虫の餌として狩るもの、それこそが、私たちがガーデニングや家庭菜園で頭を悩ませる、様々な害虫たちなのです。アシナガバチは、非常に優れたハンターです。彼らの主食は、チョウやガの幼虫、つまり、アオムシやケムシ、イモムシといった、植物の葉を食い荒らす害虫たちです。親バチは、これらの幼虫を見つけると、強力な顎で噛み砕き、肉団子状にして巣に持ち帰り、幼虫に与えます。一つのアシナガバチの巣が、一夏で捕食するイモムシの数は、実に数千匹にも及ぶと言われています。もし、庭にアシナガバチの巣が一つあれば、それは、農薬を撒かなくても、自動で害虫を駆除してくれる、非常に有能な「生物農薬」が稼働しているのと同じことなのです。彼らがいなければ、私たちの庭のバラや、家庭菜園のキャベツは、あっという間にイモムシだらけになってしまうかもしれません。また、成虫のハチは、花の蜜や樹液を吸うこともあります。その際に、様々な植物の受粉を助ける「ポリネーター(送粉者)」としての役割も果たしています。もちろん、だからといって、家の玄関先や、子供が遊ぶ庭の真ん中に作られた巣を、放置すべきだというわけではありません。人間の生活空間とあまりに近すぎる場所に巣が作られた場合は、安全のために、残念ながら駆除する必要があります。しかし、もし、家の裏手や、あまり人が近づかないような場所に、小さな巣が一つあるだけなのであれば、それは、あなたの庭の生態系を守ってくれる、頼もしい用心棒なのかもしれません。敵と決めつける前に、彼らが果たしてくれている、その知られざる功績に、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。